彼女が何を話しているのか
俺にはさっぱりわからない
ただ 彼女のかんだつめが
屍のように転がるのをみている
横顔が月に照らされ
静止画のように憂鬱を浮ばるのをみている
彼女のあんだ影が巧妙すぎて
俺の足は迷い込む
その髪 やわらかな子宮 なめらかな汚臭
耐え難い臭いに顔をそむけ
それでも いつしか 追いすがる
イバラをあむその指は
俺のオチた笑顔を打ち砕くだろう
指し出される腕 包み込むよな瞳
そうだ 彼女に近寄っちゃいけない
影とみえるのは足跡
爪とみえたのは三日月
夜へ夜へといざなってゆく
王国の女王は そうやって
迷路での まぐわいを用意するのだ
俺の足にすりついてくるやつ あねもね
甘え声をあげて 可愛いらしい素振り
小さな 小さな 女の子
殺してやりたい程 もろい生き物
俺は ツッ・・・ と 呼びながら右手を指し出す
しなやかに ずるそうな身体をよじらせて
鼻をよせ、しゃぶりつく あねもね
お前がかぎつけてるのは花の香りのつもりか?
3秒の王国 あとは地獄 つづく抱擁
その小さな呼吸を受けとめるには
俺の指はふるえすぎる あねもね
俺にはやっぱり無理だ あねもね
指先からミルクの夢を
注がれて眠りにたどりつくには
時間が消えてしまって 俺の汚い腕がもげて
お前は解放されて
せめて一瞬一緒に夢をみよう
しゃぶりつく唇に命を灯そう
眠ったよな眠らないよな夢の中で
拒否しつづけたカーニバルが回転しはじめる
鏡の前でひざまづいて 笑いころげる
ナイフを失くし 愛欲のパントマイム
俺は彼女達の花に窒息したまま
生け捕られてるんだ
風が冷たく頬打ちし
俺の心の不在を告げる
あねもね お前の小さなしっぽに指をからませたいよ
でも お前は風で 俺はただの小鳥にすぎない
小さな天使の肩に
触れる時はとても冷たく
固くぶつかり くだけて
かけらの痛みが
突き刺さる
夜空の星で
辿ったパズルは
怒声と舌打ちに
消えてゆき
泡をみつめる手のひらに
これ以上ない程
空っぽのまま
見つめる
遠く 海の彼方
これ以上何を?
問いかけた唇
まだ赤い頃
それは ぬりかえられた
灰色の月日の下で
甘いキャンデイー
口に溶ける までの いくときを
支えられずに
倒れた蝋燭の灯
燃えさかる 炎に包まれて
おちていった
夢のあとへ
草原の臭い
ひっつかまれたセーター
はじめから終わっていた
夢のあとへ
わかっていても 僕らは
銀色のスプーンで何度も
すくいあげたのだ
壊れた天使の羽根
おとされ ふみつけられ
ふるえながら 祈りながら
瞳に映る ビー玉色に
失明した詩
ぬすんだのは ポケットぶん
ぬすまれたのは
この 胸 いっぱい
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小説から一部/抜粋
・・・
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